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神戸地方裁判所 平成4年(行ウ)48号 判決

原告

水島汐美(X1)

水島信行(X2)

高木たね(X3)

原忠三(X4)

三野利昭(X5)

右原告ら訴訟代理人弁護士

小沢秀造

筧宗憲

吉田竜一

林晃史

増田正幸

松本隆行

深草徹

関根孝道

被告

神戸市長(Y1) 笹山幸俊

笹山幸俊(Y2)

右被告ら訴訟代理人弁護士

中嶋徹

大塚明

右被告神戸市長指定代理人

富田信之

中村光男

有村美加代

前田錦也

常薬寺元康

大槻光男

松原武彦

小山敏

石井ゆか

倉本健

大澤保次

下浦繁

事実及び理由

第四 当裁判所の判断

二 〔証拠略〕によれば、次の事実が認められる。

1  須磨浦海岸は、古くから美しい自然と環境に恵まれた白砂・青松の景勝地として知られてきたが、昭和二〇年代半ばから、波や潮流によって砂浜が削り取られる海岸侵食により砂浜が減退するようになった。これに伴い、台風による高潮や波によって背後の鉄道、道路、宅地などが被害を受けるなどし、一方で昭和三八年には中心となる海水浴場が閉鎖されるという事態も生じた。また、昭和四一年に設置された自治会代表、婦人団体代表、須磨区選出市会議員など市民団体等の代表、業界代表、官公庁職員及び学識経験者を委員とする「海水浴場対策協議会」は、須磨海水浴場を存続させるための方策として、下水道の整備を促進することによって海水の汚濁を防止すること、砂浜を広げて(養浜)、昔の美しい景観をよみがえらせ、市民が憩い、親しむことのできる場とすることを提言していた。

2  神戸市は、昭和三二年ころから前記侵食対策として、護岸補強工事、突堤の新設・延長、かさ上げなどの対策を実施し、ある程度効果を上げていたが、それでは不十分であると判断し、前記提言も受けて、台風や高潮による被害の防止という国土保全との調和を図りつつ、須磨浦海岸の環境を整備し快適な海浜利用の増進に資することを目的として、海岸環境整備事業として昭和四八年から養浜事業を中心とする本件整備事業に着手した。

3  第一期養浜区間の養浜事業を実施するに当たって、右区間を利用していた漁業者の施設は、須磨港に移転集約された。

4  第二期養浜区間の養浜事業の計画を策定する過程において、養浜により砂浜が広がることにより、右区間の海岸に存するのり加工場、漁具倉庫等の漁業関連施設と海岸線との距離が長くなったり、右区間の小規模の突堤などの漁船溜が消滅する結果、右漁業関連施設及び漁船溜を利用している漁業者の漁業活動に支障が生じるという問題が生じ、神戸市は右問題を本件第二期事業を推進するうえで解決する必要があった。神戸市は、その解決策として、漁港機能を強化し漁業振興を図ることをも目的として、漁業関連施設及び漁船溜施設を集約する漁業施設用地を確保することとし、右漁業施設用地の設置場所の検討を行い、一方、漁業者との間で右設置場所に関する協議がなされその中で千森川の西側に隣接する場所とすることを希望する旨の意見も出されたが、昭和六二年度において、<1>須磨浦海岸は夏期に海水浴場が開設され、海水浴場利用者と漁船航行との競合を避ける必要があり、海水浴場の端部に設置する必要があること、<2>須磨浦海岸を根拠地としている漁業者は千森川付近より西側に生活拠点があり、利便性を考えると西端部が適していること、<3>本件埋立地の西側の地域には土砂搬出用ベルトコンベアや海釣り公園があり、生活拠点との連絡が困難であり、かつ、右地域は土砂搬出船の出入り区域となり航行上危険であることを理由に、本件埋立予定地を右設置場所とすることにした。これを受けて、神戸市は、昭和六三年一月二六日付けで国から受けていた本件整備事業に係る補助金等の増額交付申請をした。

5  平成四年四月二日、神戸港港湾管理者の長は、本件出願の要領を神戸市役所及び神戸市須磨区役所の各掲示場に掲示し(以下「本件掲示」という。)、本件出願の願書及び関係図書を同日から同月二二日までの間神戸市港湾局及び神戸市須磨区役所において公衆の縦覧に供し(以下「本件縦覧」という。)、さらに同月一四日付神戸市公報に右要領を登載した。また、右縦覧の期間中に利害関係人による意見書の提出はなかった。

6  平成四年四月六日、神戸港港湾管理者の長は、公有水面埋立法三条一項に基づき本件出願に対する神戸市長の意見の照会をし、同年五月一九日、神戸市議会に公有水面埋立免許について意見を述べる件(須磨区須磨浦通六丁目地先)との議案が提出され、同月二六日、右議案は原案どおり可決され、同月二八日、神戸市長は右照会に対し「当該公有水面埋立てについては、異議はない。」との回答をした。

7  本件船溜建設事業が計画されたため、本件突堤は、漁船の係留などが可能になるように通常の突堤よりは大きな構造のものとして設計され、既設突堤に接合する形で完成した。

三 本件突堤の築造と本件船溜建設事業との関係について

本件突堤は、南東方向に向けて沖に延びているが、<1>昭和六一年度神戸港海岸環境整備事業補助金等増額交付申請書(甲二八)添付の図面には、既設突堤に接合する本件突堤と全長のほとんど変わらない突堤を南東方向に延ばす形で建設する計画が記載されていること、<2>証人山本俊幸は、本件突堤が前記のような方向に建設されたのは、本件突堤の西側に土砂の積載桟橋があり、そこに出入りする土運船の出入りする水域を確保するためであり、本件突堤は第二期養浜区間の最も西側に位置し、本件第二期事業の区域内の静穏度を確保する必要性があることから、最初に本件突堤の築造に着手した旨証言しているところ、別紙一のとおり一の谷川のすぐ西側には土砂の積載桟橋があり、本件第二期事業の東側に位置する本件第一期事業は既に完成していたことに照らせば、右証言の内容は一応合理的であると考えられ、他方右証言が不合理であると認めるに足りる証拠はないことを考え合わせると、本件整備事業の実施のためには必要でないにもかかわらず、本件船溜建設事業を遂行する必要性のみから本件突堤の築造が行われたと認めることはできない。したがって、本件突堤の築造に対する支出について、予算の目的外使用であるとか、補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律一一条一項に違反しているということはできない。

以上に加えて、本件突堤は、漁船の係留施設も兼ねるために通常の突堤よりも大きな構造に設計はされているが、原告らが本件突堤の環境に対する影響の主たる要因として主張するのは西側からの海水の流入が遮られることになる点である。前記の補助金等増額交付申請書において計画されていた突堤(別紙六赤斜線部分参照)と本件突堤を比較すると、西側からの海水の流入に対する影響という観点からは南東方向に延びた突堤の長さが重要であると考えられるところ、両者は右観点からするとほぼ同様のものということができる(少なくとも大きな相違があるとの立証はないし、突堤の上部の幅が広くなったとしても海水の流入の遮断という観点からは重要な変更とは考えられない。)。そうすると、本件船溜建設事業又はそれに伴う本件埋立てが周囲の環境に及ぼす影響を評価する際に、本件突堤の築造による影響をも一体のものとして考慮しなければならないとは考えられない。

四 本件埋立免許処分の瀬戸内法一三条違反の主張について

1  瀬戸内法三条一項は、「政府は、瀬戸内海が、わが国のみならず世界においても比類のない美しさを誇る景勝地として、また、国民にとって貴重な漁業資源の宝庫として、その恵沢を国民がひとしく享受し、後代の国民に継承すべきものであることにかんがみ、瀬戸内海の環境の保全上有効な施策の実施を推進するため、瀬戸内海の水質の保全、自然景観の保全等に関し、瀬戸内海の環境の保全に関する基本となるべき計画(以下この章において「基本計画」という。)を策定しなければならない。」と規定し、これを受けて、同法一三条一項は、「関係府県知事は、瀬戸内海における公有水面埋立法(大正十年法律第五十七号)第二条一項の免許又は同法四十二条第一項の承認については、第三条第一項の瀬戸内海の特殊性につき十分配慮しなければならない。」と規定し、同条二項は、「前項の規定の運用についての基本的な方針に関しては、瀬戸内海環境保全審議会において調査審議するものとする。」と規定している。

そして、〔証拠略〕によれば、同項に基づく基本方針として、瀬戸内法上の基本方針が定められており、瀬戸内海における公有水面埋立法二条一項の免許又は同法四二条一項の承認にあたって配慮すべきことを確認する事項として、海域環境保全の見地から四項目、自然環境保全上の見地から二項目及び水産資源保全上の見地から三項目をそれぞれ定めているが、海域環境保全上の見地からの項目として、<1>「埋立てによる潮流の変化がもたらす水質の悪化の度合及び異常堆砂・異常洗堀等による隣接海岸への影響の度合が軽微であること」(瀬戸内法上の基本方針1<2>ハ。以下「項目<1>」という。)、自然環境保全上の見地からの項目として、<2>「埋立て、埋立地の用途及び埋立工事による自然環境(生物生態系、自然景観及び文化財を含む)への影響の度合が軽微であること」(同1(2)イ。以下「項目<2>」という。)、<3>「埋立てそのものの海水浴場等の利用に与える影響が軽微であること」(同1(2)ロ。以下「項目<3>」という。)の各項目が含まれている。

2(一)  ところで、本件埋立てによる環境への影響を事前に評価したものとして、本件環境保全図書(乙二)が存在し、〔証拠略〕によれば、神戸港港湾管理者の長は右図書と同様の評価をして、瀬戸内法一三条一項に基づく配慮に関する判断を行っていることが認められる。そこで、右判断に、同項に規定された配慮義務違反があるかを検討する。

(二)  〔証拠略〕によれば、本件環境保全図書は、項目<1>について、「埋立地は、既設突堤に囲まれているため、潮流の変化は小さいものと考えられる。したがって異常堆砂・異常洗堀等による隣接海岸への影響の度合も軽微であると考えられる。」、項目<2>について、「埋立地の加工場から汚濁水が排水されるが、汚濁水が周辺海域に及ぼす影響は小さいことから、自然環境への影響の度合は軽微であると考えられる。自然景観については、建築物が低層に限られることから景観への影響は軽微であると考えられる。」、項目<3>について、「埋立てによる潮流、水質の変化はほとんどないため計画地の近くに位置する「須磨海水浴場」、「須磨海釣り公園」等の野外レクリエーション地の利用に与える影響は軽微であると考えられる。」と評価している。

項目<1>に関する評価についてみると、〔証拠略〕によれば、本件埋立ては本件突堤及びその東側に位置する突堤が完成した段階で、右二つの突堤に囲まれた水面を埋め立てる計画であったと認められ、右認定の事実によれば、本件埋立てによる潮流の変化は小さいものと評価したことを不合理であるということはできず、その他右判断を不合理であると認めるに足りる証拠はない(なお、本件突堤の完成による潮流の変化を考慮しなければならないと認められないことは前記三のとおりである。)。

したがって、項目<1>に関する評価を不十分又は不合理ということはできない。

項目<2>に関する評価についてみると、〔証拠略〕によれば、本件理立てにより本件埋立予定地に存在していたアマモなどの海生生物が消滅したことが認められる。しかしながら、〔証拠略〕によっても、本件埋立予定地の海生生物の個体数が周辺海域と比較して特別多いとか稀少生物が生息するとか認められるわけではないこと、それらの消滅による影響を具体的に明らかにする証拠はないことからすると、右認定の事実のみをもって本件埋立てによる自然環境(特に生物生態系)に対する影響が軽微ではないことが明白であるということは困難である。その他に、項目<2>に関する評価を不十分又は不合理と認めるに足りる証拠はない。

項目<3>に関する評価についてみると、本件埋立てによる潮流の変化は小さいものと評価することを不合理であると認めることはできないことは前記のとおりであるし、証人讃岐田訓は本件埋立てにより第二期養浜区間の海水浴場の使用に将来的には支障が生じるという趣旨の証言をするが、これは本件突堤による影響も考慮にいれたうえでの証言であり、その前提において適切ではなく、他に本件埋立てにより近隣の海水浴場等の利用に支障をきたすだけの水質の悪化がもたらされることを認めるに足りる証拠はないことからすると、項目<3>に関する評価を不十分又は不合理ということはできない。

(三)  前記二5認定のとおり、縦覧期間中に(右縦覧手続きに瑕疵がないことは後記五5のとおりである。)利害関係人から瀬戸内法上の基本方針についてさらに配慮することを要望する意見が提出されている訳ではなく、公有水面埋立法三条四項に基づく神戸市長の意見においてもそのような意見が述べられていない。また、〔証拠略〕によれば、神戸市の環境保全部局から、平成四年五月一一日付けで、「当該埋立計画は、環境保全について配慮がなされ、また、埋立地の用途は神戸地域公害防止計画等の環境保全に係る計画に違背せず、瀬戸内海環境保全特別措置法の埋立ての基本方針の趣旨を逸脱するものではないと考えられる。」旨の回答がなされていたと認められる。以上のとおり、本件縦覧から本件埋立免許処分までの間に、本件環境保全図書における評価に対する疑問を表明していた者はなかった。

(四)  以上(二)、(三)で述べたところを考え合わせると、本件埋立免許処分をするにあたり埋立免許権者たる神戸港港湾管理者の長が前記配慮義務を怠ったということはできない。

五 本件埋立免許処分の公有水面埋立法三条、四条違反の主張について

1  公有水面埋立法四条一項一号違反の主張について

公有水面埋立法四条一項一号によれば、同法に基づく埋立ての免許をするには、「国土利用上適正且合理的ナルコト」を要求しているが、右要件を充足するか否かの判断は、「適正」、「合理的」という不確定概念が用いられていること、陸地造成をするか海面のまま保全するかはすぐれて政治的、経済的価値判断を要する問題であることからすると、埋立免許権者の政策上の見地からする裁量に委ねられていると解される。

これを本件についてみると、前記二1、2認定のような本件整備事業が計画された経緯に鑑みると、本件整備事業の必要性がなかったとは認められないし、第一期養浜区間の養浜事業の際にも漁業施設等の集約がなされていること、神戸市が本件埋立予定地を漁業施設用地とすることにした理由が、事実の基礎又は合理性を全く欠くものとは本件全証拠によっても認められないことを考え合わせると、本件埋立予定地に漁業施設用地を設置する必要性がなかったことが明白とも認められない。そうすると、本件埋立ての必要性がなかったとは認められず、加えて、前記のとおり、公有水面埋立法三条三項に基づき利害関係人から本件埋立ての必要性がない旨の意見書の提出はなかったこと、議会の議決を経て神戸市長から異議はない旨の意見が提出されていること、本件埋立ての実施について公有水面埋立法四条三項の権利者の同意も得られていたこと(甲四により認められる。)を考え合わせると、原告らが主張する基本計画及び兵庫県計画の規定を考慮してもなお、神戸港港湾管理者の長が本件出願につき公有水面埋立法四条一項一号の要件を充足していると判断したことにつき、その裁量権の範囲を逸脱したとか、裁量権の濫用があったということはできない。

なお、原告らが、本件整備事業及び本件船溜建設事業の必要性について種々主張するところは、政策論の域を出ないもの(神戸市の裁量の範囲内の一つの選択肢にすぎないもの)である。

2  公有水面埋立法四条一項二号違反の主張について

公有水面埋立法四条一項二号は、「其ノ埋立ガ環境保全及災害防止ニ付十分配慮セラレタルモノナルコト」を要求している。

しかし、本件埋立免許処分について、環境保全に十分配慮がなされなかったとは認められないことは、前記四で認定したとおりである。

3  公有水面埋立法四条一項三号違反の主張について

公有水面埋立法四条一項三号は、「埋立地ノ用途ガ土地利用又ハ環境保全ニ関スル国又ハ地方公共団体(港務局ヲ含ム)ノ法律ニ基ク計画ニ違背セザルコト」を要求している。

〔証拠略〕によれば、昭和五三年の瀬戸内法改正の際に設けられた同法四条一項に基づき兵庫県計画が策定され、右計画において、兵庫県の瀬戸内海区域における公有水面埋立法二条一項の免許又は同法四二条一項の承認にあたっては瀬戸内法上の基本方針に沿って環境保全に十分配慮するものとする旨定められていることが認められる。

本件埋立免許処分にあたり、瀬戸内法上の基本方針に沿って環境保全に対する配慮が十分なされなかったとは認められないことは、前記四のとおりであるから、兵庫県計画に違背したということはできない。

4  本件埋立ての必要性について

公有水面埋立法四条一項は、その文言によれば、埋立免許権者に対し、同項各号に掲げた各要件に適合しない限り埋立ての免許をすることができない旨規定しているにとどまり、右各要件に適合する場合に免許することを義務づけているとまでは解されないから、埋立免許権者が免許の出願が右要件に適合していると判断した場合でも、埋立免許権者において免許を拒否することができないわけではない。しかしながら、右のような場合に免許を拒否するか否かについては、陸地造成をするか海面のまま保全するかという政治的、経済的価値判断を要する問題であるから、政策上の見地からする裁量に委ねられているというべきである。そして、前記1において述べたところによれば、本件埋立免許処分をしたことについて、裁量権の範囲の逸脱又はその濫用があったということはできない。

5  公有水面埋立法三条、同法施行令四条違反等の主張について

(一)  公有水面埋立法三条一項は、埋立免許権者は、埋立免許の出願があった場合には、遅滞なくその事件の要領を告示するとともに、公有水面埋立法二条二項各号に掲げる事項を記載した書面及び関係図書をその告示の日から起算して三週間公衆の縦覧に供すべきことを規定し、同法施行令四条(甲七四)は、「都道府県知事ハ公有水面埋立法第三条第二項(関係都道府県知事への通知)ノ規定又ハ同項ノ規定ノ準用ニ依ル通知ヲ受ケタルトキハ遅滞ナク其ノ旨ヲ関係住民ニ周知セシムルコトニ努ムベシ」と規定し、神戸市公告式条例(乙九)三条は、「条例の公布は、市公報に登載して行う。但し、急施を要する条例は、市役所その他の市事務所の掲示場に掲示して、市公報の登載に代えることができる。」と規定し、同条例六条は、「第三条の規定は、前条に掲げる規程以外のもので、公表を要する本市告示その他の公告に準用する。」と規定している。

前記二5認定の事実関係によれば、本件告示、本件縦覧の手続に公有水面埋立法三条一項に違反する点は認められない。平成八年二月八日に撮影された須磨区役所の掲示場の写真(〔証拠略〕)によっても、本件告示が告示の実質を備えなかったものと認めることはできない。

原告らは、本件告示及び本件縦覧の手続が同法施行令四条に違反すると主張するが、前記のとおりの同令の文言によれば、同令は、埋立の出願の告示又は縦覧について規定したものではないことが明らかであるから、主張自体失当である。

なお、神戸市公報発行規則四条は、「公報登載事項が生じたときは、所管課長は、公布日の一二日前までに原議とともに公報の原稿を総務局庶務課長に送付しなければならない。ただし、急施を要するものは、その理由を付して、その都度送付するものとする。」と規定している(甲五八)が、これはその文言から明らかなように神戸市公報に登載する場合の手続について規定したものである。そうすると、神戸市公告式条例三条にいう「急施を要する場合」に該当するとして神戸市公報の登載に代えて掲示場に掲示する場合の手続について規定したものではないのであるから、本件掲示を行うにあたり右規則四条の手続を経ていないとしても、何ら同条違反の問題は生じないというべきである。

また、原告らが種々主張するところを考慮しても、原告らが意見提出権なる権利を有していると解すべき法的根拠は見当たらないし、本件船溜建設計画又は本件出願に関する記事を神戸市の広報誌に掲載する法的義務があったとも解することもできない。

六 港湾法違反の主張について

1  本件第二期事業が神戸港港湾計画に位置づけられていない点について

港湾法三条の三第一項は、「重要港湾の港湾管理者は、港湾の開発、利用及び保全並びに港湾に隣接する地域の保全に関する政令で定める事項に関する計画(以下「港湾計画」という。)を定めなければならない。」と規定し、これを受けて、港湾法施行令一条の五は、政令で定める事項として、「港湾の環境の整備及び保全に関する事項」等を定めている。

港湾法三条の三第一項によれば重要港湾の港湾管理者は港湾計画の策定が義務づけられていると解されるが、港湾計画の内容をいかなるものにするかについては、港湾法の目的が、「交通の発達及び国土の適正な利用と均衡ある発展に資するため、港湾の秩序ある整備と適正な運営を図るとともに、航路を開発し、及び保全すること」とされ(同法一条)、その目的達成を図る港湾計画の策定には高度に政策的専門技術的判断が要求されることからすると、港湾管理者の広範な裁量に委ねられているというべきである。そして、港湾法施行令一条の五は、港湾管理者が港湾計画策定に当たって定めるべき最低限の事項を定めることによって右裁量の限界を定めたものということができる。そうすると、定めるべき事項に関していかなる内容の計画を策定するかについては、港湾管理者の右裁量に依然として委ねられていると解されるから、港湾法上の港湾施設を全て港湾計画の中に位置づけなければならないものではなく、右施設のうちどの施設をどのように港湾計画の中に位置づけるかは右裁量に委ねられているというべきである。

これを本件についてみると、前記二2認定の事実によれば、本件第二期事業(前記三によれば、本件突堤の築造は本件第二期事業の一環を成すものであるということができる)は、主に海岸法上の目的を達成するために行われたものであると認められること、本件第二期事業が神戸港港湾区域において占める位置(別紙四参照)を考え合わせると、本件第二期事業が神戸港の港湾管理上重要な事業であったとはいうことができず、そのような重要な事業であったことの立証もないから、本件第二期整備事業及び本件突堤の築造を予め神戸港港湾計画の中に位置づけていなかったという一事をもって、右裁量権の範囲の逸脱又はその濫用があったということはできない。

以上のとおりであるから、本件第二期事業が神戸港港湾計画に位置づけられていない点につき、違法であるということはできない。

2  本件船溜建設計画について

(一)  本件埋立てが必要のないものとは認められないことは前記五4のとおりであるから、本件船溜建設計画は必要性のない埋立を強行するために策定されたものであるということはできない。

(二)  港湾法三条の二第一項は、運輸大臣に対し、港湾の開発、利用及び保全並びに開発保全航路の開発に関する基本方針を定めることを義務づけ、右基本方針として、港湾の開発、利用及び保全並びに開発保全航路の開発に関する基本方針(昭和六二年一二月二一日運輸省告示第六五五号、以下「港湾法上の基本方針」という。)が定められ、その3(1)において、「港湾の開発及び利用にあたっては、港湾及びその周辺の環境に与える影響を計画の策定に際し事前に評価するとともに、その実施にあたっても広域的かつ長期的観点に立って環境の保全のための措置を講ずる。」と規定している。

〔証拠略〕によれば、本件埋立てに関し、「その規模が小さく、土地利用も現在、周辺に散在しているものの集約を図る内容となっているため、大気質や水質、騒音等に与える影響は軽微である」との環境への影響の評価をしていることが認められるが、右評価は、前記四で述べたところに照らすと、港湾法上の基本方針3(1)の規定に反するとまでは認められない。

加えて、<1>港湾法は、基本方針の内容について、同法三条の二第二項及び第三項において、定めるべき事項と基本方針策定の際に考慮すべき事項を規定しているにすぎないこと、<2>港湾法は、基本方針の効力について、運輸大臣が港湾計画が基本方針に適合しないと認めるときに港湾管理者に右計画の変更を求めることができると規定しているにすぎないこと(三条の三第六項)、<3>「方針」という名称が用いられていることに鑑みると、港湾法上の基本方針は、全国的な整合性一体性を確保して総合的計画的な港湾行政を遂行することを可能にするための行政上の内部的指針としての性質を有しているにすぎないというべきである。

以上によれば、本件船溜建設計画が港湾法上の基本方針に違反し違法であるということはできない。

3  本件計画変更について

(一)  港湾法三条の三第四項は、「重要港湾の港湾管理者は、港湾計画を定め、又は変更したとき(運輸省令で定める軽易な変更をしたときを除く。)は、遅滞なく、当該港湾計画を運輸大臣に提出しなければならない。」と規定しており、これを受けて、港湾法施行規則一条の二が、軽易な変更に該当する場合として、水深四・五メートル未満の係留施設の追加(同条三号イ)、面積一〇ヘクタール未満の土地の造成に関する事項の追加(同条一〇号)、面積一〇ヘクタール未満の土地に係る土地利用に関する事項の追加(同条一一号)を掲げている(乙一)。本件埋立地の面積は約二ヘクタールが計画されていたことは前記のとおりであるのに加え、〔証拠略〕によれば、別紙図面三の船揚場が係留施設であり、右船揚場の水深は四・五メートル未満であることが認められるから、本件計画変更は、軽易な変更に該当するということができる。

(二)  原告らは、瀬戸内法上の基本方針において一ヘクタール程度の埋立てを小規模の埋立てとされていることから二ヘクタールの埋立ては軽易な変更とはいえない旨主張するが、審議会の答申により港湾法施行規則の特例を定めることができるとは解されないから、右主張は採用できない。

(三)  また、原告らは、軽易な変更とは「追加、削除又は規模若しくは配置の変更」であるから、港湾施設の「建設」は含まれないと主張するが、港湾施設の建設に当たって港湾計画に位置付けることが港湾計画への「追加」に該当することは明らかであり、原告らの主張は採用できない。

七 環境アセスメント違反の主張について

1  公有水面埋立法上の環境アセスメント違反(公有水面埋立法二条三項五号、同法施行規則三条八項違反)の主張について

公有水面埋立法二条三項五号、同法施行規則三条八項によれば、埋立願書に環境保全図書の添付が義務づけられている。

環境保全図書として、本件環境保全図書が本件埋立出願に際し添付されたことは、前提となる事実4(二)のとおりであるが、その内容が不十分であるとか不合理であるとか認められないことは前記四のとおりであるから、本件環境保全図書が公有水面埋立法二条三項五号、同法施行規則三条八項の要請を満たさないものということはできない。

また、〔証拠略〕によれば、建設省河川局水政課監修の「公有水面埋立実務ハンドブック」には、「環境保全に関し講じる措置を記載した図書」に関する解説の中で、「出願人が行った環境影響評価(埋立に関する工事、埋立そのもの、埋立地の立地施設の3つによる自然的・社会的環境に対する影響の程度と範囲、その防止策、代替案の比較検討、に関する事前の予測と評価)そのものを記載すること」と解説していることが認められるが、右ハンドブックは法的効力を有するものではないから、右ハンドブックを根拠に、本件環境保全図書において埋立不実施も含む代替案の比較検討をしていないことについて、公有水面埋立法二条三項五号、同法施行規則三条八項違反があるということはできない。

2  その他の環境アセスメント違反の主張について

原告らは、本件第二期事業、本件船溜建設事業及び本件計画変更について、本件閣議了解及び本件閣議決定、又は神戸市環境影響評価要綱に基づく環境影響評価がなされていないことを違法と主張している。

しかしながら、本件閣議了解、本件閣議決定は、政府部内の意思統一にすぎず、神戸市環境影響評価要綱は、神戸市が行政の指針として制定する内部規範にすぎず、いずれも環境影響評価の法的義務を課するものではないから、それらに基づく環境影響評価を実施していないからといって、違法の問題は生じないというべきである。

その他、原告らが主張するような環境影響評価を法的に義務づける根拠は見当たらない。

八 本件船溜建設事業による環境権、人格権等の侵害の主張について

1  原告らが主張する環境権、自然享有権について検討すると、憲法一三条、二五条が右各権利を個人の権利として保障しているとは考えられないし、他に右各権利の実定法上の根拠も見出すことはできない。さらに、右各権利の主体(特に自然享有権について)、内容、範囲、効果などが不明確であることも考え合わせると、右各権利は権利として未だ確立されていないものといわざるを得ない。

2  また、原告らが主張する人格権についてみると、個人の人格的利益のうち、生命、身体等の重大な利益については、現に侵害され、又は将来浸害されようとしている場合には、法的救済を受けることができ、そのような場合にそれらの利益を人格権と総称することができる。

しかしながら、証人讃岐田訓は、本件整備事業及び本件船溜建設事業によって、須磨浦海岸(特に第二期養浜区間)の水質の悪化が予想されると証言するが、一方で、その程度はなかなか予測がつきがたくて分からない旨証言していること、水質悪化による影響も五〇年から一〇〇年くらいしか海水浴場としてもたない旨証言しているにとどまり、原告らの生命、身体への危険について具体的に証言していないうえ、その内容はあいまいといわざるを得ず、他に本件整備事業又は本件船溜建設事業により原告らの生命、身体又はそれと同視しうる重大な利益が現に侵害され、又は将来侵害されようとしていると認めるに足りる証拠はない。したがって、本件船溜建設事業及び右事業をその一部とする本件整備事業による原告らの人格権の侵害が本件支出(一)及び同(二)の違法を導くという関係にあるか否かについて検討するまでもなく、原告らの主張は採用できない。

九 養浜事業における公有水面埋立手続の欠如の違法について

原告らは、本件整備事業のうちの養浜事業について、公有水面埋立法一条にいう「埋立」に該当するにもかかわらず、公有水面埋立法の手続が欠如した違法があると主張するが、右主張を認めるに足りる証拠はなく、採用できない。

一〇 本件支出(一)及び同(二)の違法性についての判断

原告らは、本件整備事業の養浜事業、本件第二期事業、本件船溜建設事業又は本件埋立免許処分のいずれかに違法があれば、右各事業及び処分を前提とする本件支出(一)及び同(二)も違法となると主張する。しかしながら、原告らの右主張の当否を検討するまでもなく、前記三から九までにおいて検討したとおり、右各事業及び処分のいずれにも原告らが主張するような違法は認められない。したがって、本件支出(一)及び同(二)の事実が認められたとしても、違法に支出されたものということはできない。

(裁判長裁判官 將積良子 裁判官 徳田園恵 西野吾一)

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